楽観視されている”中国リスク”を再検証(会社四季報オンライン)



 2018年の世界金融市場にとって、大きなリスク要因となるものは何なのか。

 現状、リスクらしいリスクは見当たらないというのが本当のところだが、いつ状況が変わって新たなリスクが浮上するかわからない。危機とは、予想外の形でリスクが浮上することであり、何も起きていない今こそいろいろと思考を巡らせるべきだろう。

 現時点で大きな潜在的リスク要因として考えられるものとしては、次の2点が筆頭に挙げられる。それは、「米国の長期金利上昇リスク」と、「中国経済リスク」だ。

 一番目の米国の長期金利上昇については、また改めて触れることにして、今回はもう一つの中国経済リスクについて見てみたい。具体的には、現在緩やかに進めているとみられる金融引き締めが行き過ぎて経済が失速するリスク、あるいはその逆に抑制が効かずに金融市場に何らかの混乱が生じるリスクだ。中国経済の厄介な点は、日本の投資家にとって理解することが難しく、その一方でリスクが顕在化した際には恐らく非常に大きな影響が及ぶと考えられる点にある。

 なぜ中国リスクの理解が難しいかといえば、中国経済について、客観性が高く、網羅的で、かつリアルタイムな情報が大きく不足しているからだ。それに加えて、ひところよりも落ち着いてきた感はあるものの、客観性を欠いた「中国経済崩壊論」のようなものも多くみられ、どうしても印象論に振り回されがちだ。

 しかし、いまや中国経済に一大事があれば、日本経済はもとより、世界経済にも大きな影響が免れない。2015年に起きた世界的な株価の調整が中国発だったことは、銘記すべきだろう。

■ 「新興経済大国の罠」を避けられるのか

 歴史的に見れば大きなバブルの発生と崩壊による混乱は、急速な経済成長によって経済大国化した国で起きている。17世紀初頭のオランダにおけるチューリップバブル、18世紀初頭のイギリス南海会社バブル事件、19世紀末から20世紀前半にかけて何度か起きたアメリカのバブルとその後の混乱、1980年代の日本のバブルなどだ。これらは「新興経済大国の罠」と言ってもよい。次のバブルの発生源が中国になることは、歴史に照らしてみれば十分に考えられるのである。

 中国経済は現状比較的堅調に推移しているようだが、問題視されている点としては債務残高が大きく膨れ上がっていることが挙げられる。債務残高の大きさは、経済の不均衡を示唆する最も重要な指標の一つである。現在、民間債務残高の対GDP比率は210%に達し、日本のバブル期並みの水準だ。公的債務については、中央政府の財政状況は必ずしも悪くないものの、地方政府の債務はかなり膨れ上がっている。

 このような不均衡が蓄積していくと、いずれ金融市場で一気に調整が行われ、市場の暴落や金融危機が生じるわけだが、中国の場合は、それを政府の規制や政策で何としても抑えこもうとしている。問題はそれが本当にうまくいくのか、である。これだけ世界経済で大きなプレゼンスを持った国が、政府の指導や介入によって、大きなショックを引き起こすことなく経済の不均衡を調整することが果たしてできるのか。それは先例のないことだけに、先行きは予断を許さない。

 この点について、世界の投資家の多くは楽観視しているようである。だが、債務の膨張を防ぐための金融引き締めが行き過ぎれば、経済が落ち込んで債務問題はかえって深刻化するだろう。逆に、金融引き締めが効かなければ、債務はさらに膨れ上がって、将来の厄災の種を大きくすることにしかならない。巨大な経済を、人為的にちょうどいい具合に誘導し続けることができるというのは、幻想に過ぎないかもしれないのだ。

 ここで気になる点は、上海市場など中国国内株式市場がここ最近、本来のダイナミズムを失い、たいして上がりもしなければ下がりもしないように見える点である。政府の公式・非公式の介入のせいもあろうが、経済の状況をリアルタイムで示す指標として健全に機能していない可能性がある。市場はしばしば間違いを起こすが、健全な市場が危機の予兆を示してくれる場合もある。そうした市場による警戒シグナルを期待できないところに、中国リスクの本当のリスクが潜んでいるのである。

 田渕 直也(たぶち・なおや)/1985年、一橋大学経済学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)で主にデリバティブのトレーディング、ポートフォリオマネジメントに従事。UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ投信)債券運用部チーフファンドマネージャーとして、社債やストラクチャード・プロダクトへの投資運用体制を構築。『ファイナンス理論全史』、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』など著書多数。現在、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表。

※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。

田渕 直也



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